【第5分科会 パネル報告2】要旨

 

 

「クィア理論と法理論の交差」

司会:清水晶子

 


「婚姻制度廃止後の成人同士の共同生活と法」

松田和樹

 婚姻制度を廃止しよう。ではその後どうすべきか? 成人同士の共同生活の編成を人々の私的自治に委ねることとしても、他者の権利侵害を伴う共同生活やあまりに不平等な共同生活に対して法は介入すべきかもしれない。本報告は、とりわけ非規範的/クィアとされる生活を送る人々の権利保障という観点から、その介入のあるべき姿を構想する。この際、エリザベス・ブレイクやクレア・チェンバーズの議論を批判的に検討する。


 「ブルーボーイ裁判はいかにトランスセクシュアリティを問題化したか」

山田秀頌

 1969年のブルーボーイ裁判判決は、性別適合手術の合法性について詳細な判断を下した唯一の判決として、90年代後半以降の性同一性障害の制度化において重要な文脈を成した。本報告は同裁判がトランスセクシュアリティ概念をいかに英語から導入し、問題化したかという点に注目しながら、どのような意味において性同一性障害体制の文脈となったのかを、判決、裁判資料、法学者による解説やその他の先行研究等を通じて検討する。

 


「トランスジェンダーの身体と「発達」をめぐる政治」

葛原敦嘉

 特定のトランスジェンダーにとって、門番として身体の自律性を阻む医療制度や法制度との交渉はクリティカルな問題であるが、とりわけ若年のトランスジェンダーの医療アクセスを刑罰化する動向が、近年英米に広がっている。本発表では、直線的=異性愛・健常主義的「発達」の規範に挑戦してきたクィア理論とフェミニスト障害学における時間論を土台に、第二次性徴抑制剤の投与をめぐる政治を読み解く。