【第8分科会 個人発表4】要旨

 

「作りおき料理本における起業家女性像と時間・空間管理」

長山智香子

 

 2010年代半ばから台所での時間節約を目指した作りおき料理本が流行した。本発表ではこれを(1)新自由主義下で過剰になる女性の二重労働に対して自己責任型解決策を提示する消費文化の治療的言説、(2)空間、時間、身体を経済的資源として管理する女性起業家の模範化、(3)異性愛核家族の苦しみ、失望と希望を大衆文化を通じて共有し女性の共同性を構築する「親密な公共空間」(Berlant)の一環として位置付ける。

 


「フェミニズム文学批評を「ポストフェミニズム」の観点から考察する

――村田沙耶香『コンビニ人間』、水無田気流『Z境』を読み解く」

真野孝子

 

 「ポストフェミニズム」の時代の文学は、女性が第二波フェミニズムに生み出したものと、どのように変わったのだろうか。新自由主義とフェミニズムの親和性が指摘される事態も現れるなかで、「承認」と「分配」の対立や融和が、フェミニズムの内外での分断・格差の状況と相まって論じられてきている。文学の状況も例外ではなく、むしろ先駆的に時代を反映しているのである。村田と水無田の作品はまさにそのような文学である。彼女たちの作品を読み解きながら「ポストフェミニズム」のフェミニズム文学批評を探っていきたい。

 


「「脱構築」はいつまで有効か  「構築」の動因としての「子宮を映しとる」ことの意味

――三枝和子の『女の哲学』を精神分析と哲学の間に位置づける」

乾智代

 

 女が母になることの「無償性」を問うことを追究している。女性作家の三枝和子は共同体を「子宮」として表現し、哲学は男性が女性の出産の「神秘」を抽象化して思想に映しとったところに成立するとした。「神秘」が生殖医療によって剥がされている現在から三枝の指摘を再考し、三枝の思想において、男性に「子宮を映しとる」動機があり、その動機が表象体系とそれに基づいた社会の構築の動因として捉えられていることを指摘する。